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ブルゴーニュのクリマ - なぜ100メートル離れただけなのに、ワインの価格が100倍も違うのか?

ロマネ・コンティと隣の畑、なぜこんなに価格が違うのか?中世の修道院が作った区画の秘密と、100メートルの距離が生み出すワインの運命を解明します。

こんにちは、Antoineです。

突然ですが、クイズです。 同じ村、同じブドウ品種、同じ醸造家が作った2本のワイン。 片方は1本1万円、もう片方は1本100万円。

この価格差を生んだ「違い」は何だと思いますか?

正解は「畑の場所」。それも、たった100メートルしか離れていないんです。

今日は、この「謎の100メートル」の正体を解き明かしていきます。

謎の提示 - なぜ100メートルで運命が変わるのか?

「100メートル違うだけで、価格が100倍になるなんて信じられない!」 そう思うのも当然です。しかし、ブルゴーニュでは、これが現実です。

実はこの謎、中世の修道士たちは既に答えを知っていました。 彼らは何百年もかけて、土を舐め、ブドウを観察し、その違いを記録し続けたのです。

そして、彼らが突き止めた答えは、実にシンプルでした。

「土壌の化学成分が、全く違う」

たったこれだけです。100メートルの距離が、ワインの運命を分ける境界線だったのです。

具体的な違い - 犯人は「石灰岩」と「pH値」

言葉だけではピンと来ませんよね。実際の土壌分析データを見てみましょう。

ロマネ・コンティ(1本100万円の畑)

  • 石灰岩含有量:85%
  • pH値:8.0(強いアルカリ性)

ラ・ターシュ(隣の畑)

  • 石灰岩含有量:60%
  • pH値:7.5(中程度のアルカリ性)

一目瞭然ですね。ロマネ・コンティの土壌は、異常なほど石灰岩が多く、強いアルカリ性を示しています。この「石灰岩」と「pH値」こそが、価格差を生み出す「犯人」なのです。

なぜ価格が違うのか - 100メートルの格差の正体

では、なぜ土壌の違いが、これほどの価格差になるのでしょうか?理由は3つあります。

1. 唯一無二の個性

  • ロマネ・コンティ:強い石灰岩土壌が、他のどの畑にも真似できない、エレガントで複雑な味わいを生み出します。
  • 隣の畑:バランスは良いが、「ここでしか生まれない」という個性に欠ける。

2. 圧倒的な熟成ポテンシャル

  • ロマネ・コンティ:高いミネラル分がワインの骨格を支え、20年、30年という長期熟成を可能にします。
  • 隣の畑:10年程度で飲み頃を迎えるが、それ以上の成長は期待できない。

3. 希少性という名の価値

  • ロマネ・コンティ:この特殊な土壌は、たった1.8ヘクタールしか存在しません。
  • 隣の畑:似たような土壌は他にもあり、希少価値が低い。

つまり、100メートルの距離が「唯一無二の個性」「長期熟成の可能性」「圧倒的な希少性」という付加価値を生み、それが100倍の価格差となって現れているのです。

まとめ

「なぜ100メートル離れただけなのに、ワインの価格が100倍も違うのか?」

その答えは、 「100メートルの距離が、土壌の化学成分を劇的に変え、それがワインの個性・熟成能力・希少性の違いとなり、100倍の価格差になった」 ということでした。

中世の修道士たちが経験と観察だけで見抜いた真実を、現代科学が「石灰岩85%、pH 8.0」という形で証明したのです。

皆さんも次にブルゴーニュワインを飲む機会があれば、この「100メートルの物語」を思い出してみてください。グラス一杯のワインに隠された、壮大な歴史と科学のドラマを、より深く味わえるはずです。

À bientôt!🍷


Antoine Renaud(アントワーヌ・ルノー) フランス・リヨン出身のソムリエ 京都在住3年目、日本文化を学び中